スヌーピーの変装のなかでも屈指の人気を誇るジョー・クール(Joe Cool)の正体は、スヌーピーが自らの空想世界の中で演じる「イケてる男子大学生」のペルソナです。名前にある「ジョー(Joe)」は、アメリカ英語の俗語で「ごく普通の男」「名無しの権兵衛」を意味する一般的な呼称であり、1950〜1970年代のアメリカでは典型的な男子学生を「ジョー・カレッジ(Joe College)」と呼ぶ風潮がありました。シュルツ氏はこのスラングをもじり、「イケてる男」を自称する気取ったキャラクターとして「ジョー・クール」を生み出しました。
原作コミックにおける誕生秘話と初登場は、1971年5月27日のデイリー版新聞連載に遡ります。ある日突然、丸みを帯びたダークサングラスを装着して現れたスヌーピーは、学生会館(Student Union)の壁に寄りかかり、「やあ、ガールズ」と心の中で語りかけながらクールな学生になりきってみせました。折しも1970年代初頭のアメリカは、ヒッピー文化やカウンターカルチャーを経て、大学キャンパスにおける若者ファッションが独自のアイデンティティを持ち始めた変革期でした。シュルツ氏は当時の若者たちの気取った生態や流行を鋭敏に観察し、新聞漫画ならではの軽妙なアイロニー(皮肉)を込めてこのキャラクターを造形したと記録されています。