組織社会学およびスポーツ心理学の観点からプロ野球のチームビルディングを紐解くと、捕手というポジションは単なる守備位置の一つではなく、「グラウンド内のリーダーシップの象徴」であり「投手の感情をコントロールするアンカー(錨)」としての役割を担っています。
高額年俸で他球団からFA捕手を招聘する際、最も危惧されるのは生え抜き選手との間に生じる「心理的バウンダリー(境界線)」の軋轢です。外部から来た高給取りの捕手がベンチ内で孤立したり、若手投手が萎縮して腕を振れなくなれば、大型補強は組織崩壊の引き金になりかねません。過去にFA捕手を獲得して失敗した球団の多くは、この組織内力学の摩擦を制御できませんでした。
しかし、甲斐拓也という選手は育成契約から這い上がってきた叩き上げであり、常に投手の心情に寄り添うフォロワーシップとリーダーシップを兼ね備えています。自らを飾らず、誰よりも投手のデータを研究し、ミスを自分の責任として背負い込むその真摯な姿勢は、新天地の投手陣からも急速に信頼を勝ち得ています。「勝てる捕手」への莫大な投資が成功するか否かの分岐点は、単なる盗塁阻止率や打率ではなく、「チームの若手投手がマウンド上でどれだけ自己開示し、思い切り腕を振れる心理的安全性を捕手が提供できるか」にかかっています。巨人の巨額投資は、その無形の組織価値を買い取ったという点において、極めて合理的な経営判断であったと結論づけられます。