『世界の車窓から』を語る上で欠かせないのが、初回放送から一度も交代することなく語り手を務める俳優・石丸謙二郎の存在です。同一のナレーターが35年以上にわたって休まず担当し続ける例は、世界的にも極めて稀な記録といえます。
石丸自身が過去の特番インタビューや回想録で語っている通り、収録において最も意識されているのは「映像の主役である風景や列車、そこに暮らす人々を邪魔しないこと」です。過度な感情移入を避け、ささやくように語りかける低音のバリトンボイスは、視聴者が自らその列車に乗っているかのような錯覚をもたらします。
「今日は〇〇駅から、のどかな田園地帯を抜けていきます」という冒頭の一言だけで、慌ただしい日常から一瞬で異国の旅路へと意識をトリップさせる演出力は、まさに職人技の極みです。