香田さんの事件を振り返る上で避けて通れないのが、当時ネット掲示板(2ちゃんねる等)や一部週刊誌を中心に噴出した苛烈なバッシングと「自己責任論」です。
退避勧告を無視して危険地帯に入ったことに対する批判は一定の妥当性を持つものの、ネット上では香田さん個人への人格攻撃にとどまらず、家族の自宅周辺への嫌がらせ電話やビラ配り、根拠のない中傷デマが横行しました。当時はインターネットが一般家庭に急速に普及した過渡期であり、匿名掲示板における集団過熱現象(ネットリンチ)の初期の典型例として、メディア研究者や社会学者の間でも深刻な課題として記録されています。
また、ネット上では「香田さんはスパイだったのではないか」「特定の政治団体の指示で動いていた」といった根拠のない陰謀論が散見されましたが、警察庁や外務省の調査、報道各社の追跡取材によって、これらは完全なデマであることが証明されています。実態は、政治的背景を一切持たない一人の若者が、危険予測を誤って最悪のテロリズムに巻き込まれたという純然たる悲劇でした。