店頭から商品が消えた際、ネット掲示板やSNSでは根拠のない憶測が飛び交いました。中でも目立ったのが「強い刺激成分に発がん性がある」「薬事法(現・医薬品医療機器等法)に抵触して国から回収命令が出た」という言説です。長年取材を重ねてきた医療・医薬品業界の視点から断言すれば、これらの情報は完全な誤認に過ぎません。
タイガーバームの主成分は、d-カンフル、l-メントール、ユーカリ油、チョウジ油(クローブ油)、ハッカ油といった天然由来の精油成分とワセリン・パラフィンです。厚生労働省から「第3類医薬品」として正式に承認を受けており、毒性や発がん性による行政処分を受けた履歴は過去に一度も存在しません。
では、なぜこれほどまでに「危険」という不穏な検索サジェストが残存しているのか。そこには2つの構造的な要因が横たわっています。
第1に、昭和の時代から伝わる「虎の骨や内臓が入っている」「皮膚が溶けるほど強い」といった怪しげな都市伝説の残滓です。実際には動物性成分は一切含まれていませんが、独特の強烈な芳香と刺激感が誤ったイメージを増幅させました。
第2に、海外流通品である「赤(タイガーバーム レッド)」と日本国内承認品である「白(タイガーバーム ホワイト)」の成分規制をめぐる混乱です。タイガーバームには世界的に2つのバリエーションが存在しますが、日本の薬事法規における承認要件が両者で決定的に異なっています。
海外旅行の土産として定着している「赤」には、強力な温感をもたらすカッシア油が配合されています。この赤色軟膏は日本の薬事申請を通しておらず、国内店頭で販売することは法律上できません。この「赤が日本で売られていない」という事実が、「タイガーバームは規制されて販売中止になった」という噂へとすり替わったのがカラクリの全貌です。