「魔王」という禍々しい文字が冠されていることから、邪悪な存在や怨霊が封じられている場所と誤認されることも少なくありません。しかし、鞍馬寺の公式見解および教理において、その解釈は根本から否定されています。ここに祀られているのは、世界の調和を司る根源神「尊天(そんてん)」の三身一体を構成する主尊の柱、護法魔王尊(ごほうまおうそん)です。
鞍馬寺の由緒書や開山伝承によると、護法魔王尊は今から650万年前(新生代第三紀中新世)、地球の霊的進化と人類救済の大命を帯び、金星から鞍馬山へ降臨したと伝えられます。仏教寺院でありながら「数百万年前」「地球外天体」という壮大なスケールが公然と語られる背景には、鞍馬山が歩んできた特異な宗教史があります。
宝亀元年(770年)、鑑真和上の高弟である鑑禎(がんちょう)上人が草庵を結んだことに始まる鞍馬寺は、長らく天台宗に属していました。転機となったのは昭和22年(1947年)、初代管長・信楽香雲(しがらきこううん)師による「鞍馬弘教(くらまこうきょう)」の立教開宗です。香雲師は、千手観音菩薩(月の精霊・愛)、毘沙門天王(太陽の精霊・光)、そして護法魔王尊(大地の霊王・力)の三位を統合し、宇宙エネルギーの結晶たる「尊天」として再定義しました。
この「650万年前・金星降臨」の教義は、近代オカルティズムや神智学協会が提唱した地球霊王「サナトクマラ(Sanat Kumara)」の金星降臨説と見事な符合を見せています。東西の霊性思想が鞍馬の地で奇跡的なシンクロニシティを起こし、現代では本殿金堂の金剛床に降り注ぐ宇宙エネルギーと、その発信源たる奥の院魔王殿がひとつの霊的サーキットとして参拝者を魅了し続けています。