ネットの掲示板やSNS上で「DTM作曲をなめるな」と先輩クリエイターが苦言を呈する背景には、単なるマウントや排他意識ではなく、DTM作曲が甘くない理由を熟知しているからこその切実な実感があります。最大の要因は、DTMが「単なる作曲」ではなく、かつてプロの現場で各専門職が分業していた膨大なタスクを、たった1人の頭脳とPC環境に集約した作業である点にあります。
商業音楽の制作現場において、メロディを作る「コンポーザー」、楽器の編成や展開を構築する「アレンジャー」、シンセサイザーの波形を設計する「マニピュレーター」、録音とバランスを整える「ミキシングエンジニア」、最終的な音圧と音響特性を最適化する「マスタリングエンジニア」は、それぞれ十年以上の修練を積んだ専門家が担当してきました。しかしDTMの世界に足を踏み入れた瞬間、初心者はこれらすべての責任を1人で背負わされることになります。
現場のクリエイター手記や知恵袋の投稿には、「マウス操作で直感的に曲が作れると思って飛び込んだが、実際は航空機のコックピットのような画面を前に途方に暮れた」「楽器が弾けないコンプレックスを埋められると思ったのに、それ以前の音響工学やパソコンの最適化設定で心が折れた」という悲痛な声が溢れています。この「作業領域の異常な広さ」こそが、経験者が「なめるな」と口を揃える最大の真実です。