ストーリーの本筋とは一切関係なさそうに見える「脱線した会話」。これこそが西尾作品における最も危険な罠である。登場人物たちが何ページにもわたって繰り広げる、どうでもいい軽口や言葉の定義をめぐる水掛け論。初読の読者は「また始まった」と苦笑するかもしれない。
だが、終盤で事態は一変する。あのくだらない掛け合いの中に、事件の核心や犯人の動機、世界観の根本的なルールが隠されていたことが明かされるのだ。無用と思われた言葉のパーツが、完璧に噛み合ってカチリと音を立てる快感。僕らは雑談のふりをした伏線の檻に、知らず知らずのうちに閉じ込められている。