1996年7月クールに放送されたドラマ『コーチ』は、バブル崩壊後の閉塞感が漂い始めていた日本社会に、爽快なエネルギーを注入した人間ドラマでした。主演を務めたのは、トレンディドラマの女王として君臨していた浅野温子と、ミュージシャンとして圧倒的な表現力を誇り俳優としても異彩を放っていた玉置浩二の2人です。
物語の起爆剤となったのが、玉置浩二が作詞・作曲・歌唱を手掛けた主題歌『田園』でした。「生きていくんだ それでいいんだ」という力強いフレーズは、リストラや事業再編に揺れていた当時の大人たちの心に深く突き刺さり、累計売上100万枚を超えるミリオンセラーを記録。同年の『NHK紅白歌合戦』で披露された魂のパフォーマンスは、歴代紅白屈指の名シーンとして今なお語り草となっています。
さらに世間を驚かせたのが、倒産寸前の工場を救う切り札として劇中に登場した「サバカレー」の存在でした。当時、生臭さの処理や味付けの難しさから商品化は困難とされていたサバのカレー缶詰ですが、ドラマの反響を受けた地元銚子の水産加工会社「信田缶詰」が実際に製品化へ踏み切ると、瞬く間に店頭から商品が消え去る空前の大ヒットとなりました。フィクションのドラマが現実の地域経済と消費行動を直接動かした先駆的事例であり、単なるテレビ番組の枠を超えた文化現象となりました。