「世界一爪が長い人の現在とはどうなっているのか」という点において、最も象徴的なエピソードがシュリダル・チラル氏の決断です。2018年7月、82歳を迎えたチラル氏は、ついに66年間伸ばし続けた爪を切断することを公表しました。
切断を決意した劇的な経緯と手術現場
爪を切った理由は、加齢による限界と耐え難い肉体的苦痛でした。左手の爪全体の総重量は相当な重みとなり、長年の負荷によって左腕の末梢神経が不可逆的な損傷を受けました。その結果、左耳の聴力を完全に失い、左手の指関節は癒着・変形して固まり、指を動かすことすらできなくなっていたのです。激痛に耐えかねた彼は、文化財としての保存を条件に切断を決意しました。
切断式はニューヨークの専門クリニックで執り行われました。通常の爪切りや医療用ハサミは一切歯が立ちません。医師は防護マスクを着用し、工業用の小型電動グラインダー(回転式ノコギリ)を投入。舞い散る粉塵のなか、数十分の慎重な切削作業を経て、半世紀以上彼と同化していた9メートルの爪は無事に切り離されました。
切断後の現在と爪の保管場所
切り落とされた爪は現在どこにあるのか。チラル氏の爪は、奇妙な世界記録や遺物をコレクションする米国の有名博物館『リプリーズ・ビリーブ・イット・オア・ノット!(Ripley's Believe It or Not!)』ニューヨーク・タイムズスクエア本館に寄贈され、特製の展示ケースに入れられて永久展示されています。
切断後の現在、チラル氏は母国インド・プネーで余生を過ごしています。切断によって腕の重量的負担からは解放されたものの、壊死寸前まで萎縮した左手の機能が元に戻ることはありませんでした。しかし本人は現地メディアの取材に対し、「自分の夢を成し遂げ、世界記録として後世に残せたことに後悔はない」と晴れやかな笑みを見せています。