インターネット上のショート動画や写真共有アプリで数百万回再生を記録する一の俣桜公園の水没林。青く透き通る水の中に立ち枯れた樹木が何本も並び、その根元を色鮮やかな錦鯉が浮遊する姿は、CG合成すら疑わせるインパクトを持っています。報道関係者や現地を訪れた旅行者の証言を丹念に洗い直すと、この景観はまぎれもない現実であることが確認できます。
ただし、ここにはSNS特有の「切り取りの罠」が潜んでいます。画面越しに見る鮮烈なコバルトブルーは、偏光(PL)フィルターを用いた撮影や露出調整によって水の反射を抑え、湖底の澄んだ青緑色を強調した作品が少なくありません。肉眼で直視した場合、天候が曇天であったり前日に雨が降ったりすると、水は一般的な池と同じように緑褐色へと濁り、水底の枝葉が見えにくくなります。
また、この池が「蒼霧鯉池」と呼ばれる最大の理由は、春や秋の冷え込んだ朝に立ち込める朝霧にあります。外気温と水温の差によって立ち上る霧が水面を覆い、枯れ木の輪郭をぼかす時間帯こそが、インターネットでバズを起こした「幽玄な別世界」の正体です。つまり、真昼の強い日差しや雨天時にふらりと訪れても、ネットの画像通りの光景には出会えません。光の角度と自然条件が完璧に揃った瞬間にのみ現れる、きわめて繊細な自然現象の産物なのです。