強打全盛の現代スポーツにおいて、選手たちの肉体スペックは限界まで高められた。リターン側のポジションは年々深くなり、強烈なビッグサーブですら容易に差し込まれる事態が頻発している。そこで浮上したのが、あえて球速を極限まで落とし、ネット際にポトリと落とす前代未聞の発想だ。
テニスの世界では、相手がコート深くで構えれば構えるほど、ネット前の広大なスペースが剥き出しになる。ニック・キリオスがコート上で魅せたあの鋭い閃光のような配球は、観客を沸かせるパフォーマンスにとどまらない。物理的・空間的な隙を突く高度な心理戦の賜物なのだ。