笠原将弘氏の人生を語る上で、切っても切り離せないのが亡き妻・えりかさんの存在だ。2012年、妻のえりかさんは子宮頸がんのため39歳という若さで帰らぬ人となった。当時、恵比寿の「賛否両論」は連日満員を誇り、料理人としてのキャリアは絶頂期を迎えていた。しかし、私生活では一転して、3人の幼い子ども(長女、次女、長男)を抱えるシングルファザーとしての過酷な日常が始まった。
早朝からの仕込み、店舗経営、深夜におよぶ片付け、そして家庭での家事や弁当作り。どれ一つとして手を抜かない男の背中を、子どもたちは静かに見つめていた。「料理店を潰すわけにはいかない」「子どもたちに惨めな思いはさせない」。その一念だけで駆け抜けた日々は、まさに壮絶の一言に尽きる。彼の料理に滲み出る優しさと深みは、こうした悲しみと苦難を味わい尽くした経験から生み出されていることは間違いない。