インターネット上の掲示板やSNSでは長年、「くしゃみは1回あたり約2〜4kcal消費するため、1日に数十回出ればそれだけでおにぎり半分分のカロリーを消費できる」といった情報が拡散されてきました。しかし、運動生理学およびエネルギー代謝の観点から見ると、この数値は明らかな誤認です。
安静時における人体の基礎代謝と消費エネルギーの構造を精査すると、体重60kgの成人が1秒間に消費するエネルギー量は約0.015kcal程度です。くしゃみは横隔膜や腹直筋、肋間筋などの呼吸筋が一瞬だけ激しく収縮する反射運動であり、筋肉が実質的に激しく稼働している時間は1秒未満に過ぎません。瞬間的な筋収縮による上乗せ分を考慮しても、くしゃみ エネルギー消費量は1回あたり約0.005〜0.05kcal前後にとどまるのが医学的な妥当値です。
ではなぜ、「2〜4kcal」という大幅に誇張された数字が定着してしまったのでしょうか。医療関係者や呼吸器専門医の見解によると、後述する「咳(せき)の消費エネルギー試算」が誤ってくしゃみに転用され、さらにインパクトを強める形でネット上に定着した経緯が浮き彫りになっています。全身に走る激しい衝撃の大きさゆえに、「これだけ強い負荷がかかるなら莫大なエネルギーを使っているはずだ」という主観的な錯覚が、都市伝説の拡散を後押ししたといえます。