なぜ「頭(かしら)」は手足を持たず、生首の形状をしているのでしょうか。その民俗学的ルーツを辿ると、日本の古典的な怪談や妖怪伝承に行き当たります。
最も有力なモデルとされるのが、江戸時代の奇談集『絵本百物語』などに記されている妖怪「舞首(まいくび)」です。神奈川県真鶴の伝承などでは、酒の席の諍いから斬り合いとなり、首を刎ね合って海に落ちた3人の悪党(小万・大蔵・八郎兵衛)の首が、死後もなお海上で相手を睨みつけ、炎を吹きながら争い続けたと伝えられています。
「3つの首が1組である点」「常に互いを見合いながら跳ね回る点」は、まさに『千と千尋の神隠し』の頭(かしら)そのものです。宮崎駿監督は幼少期から日本の古典怪談や民俗学に深い造詣を持っており、この不気味な妖怪のモチーフを独自に昇華させたと見られています。
さらに、中国から伝わり日本で縁起物として定着した「達磨(だるま)」の要素も巧みに織り交ぜられています。達磨大師が9年間の壁観(座禅)によって手足が腐り落ちたという伝説は、手足のない球体フォルムの原型です。不気味な生首という妖怪要素に、丸みを帯びただるまの造形と太い眉毛・髭のアイコンを重ね合わせることで、恐ろしさとどこか憎めない愛嬌が同居する唯一無二の造形が完成しました。