佐々木蔵之介のキャリア形成は、日本のトップ俳優の中でも極めて異例のプロセスを辿っています。
京都屈指の進学校である洛南高等学校を卒業後、実家の酒蔵を継ぐ専門知識を修得するため東京農業大学農学部に進学。その後、バイオテクノロジー研究を深める目的で神戸大学農学部(生物資源学科・農芸化学専攻)へと進みました。理系学生として酵母や発酵の研究に打ち込む傍ら、神戸大学のアカデミックな環境で演劇活動と出会い、小劇場の世界へ傾倒していきます。
大学卒業後はすぐに役者一本に絞るのではなく、大手広告代理店「大広」(関西支社)に就職しました。営業部門に配属された彼は、クライアント対応やプレゼンテーション、マーケティング戦略の立案など、過酷なサラリーマン業務をこなしていました。平日はビジネスパーソンとして奔走し、夜間や休日は劇団「惑星ピスタチオ」の看板俳優として舞台に立つという「二足のわらじ」を約2年半にわたり継続したのです。
当時の上司や同僚からは「仕事の処理能力が極めて高く、誠実な営業マンだった」と高く評価されていました。最終的に「人生を一度きりの演劇に賭けたい」と退職を決断した際も、社内外から温かく送り出されたといいます。この会社員時代のリアルなビジネス感覚と対人スキルが、後年の理知的で説得力のある演技の強固なバックボーンとなっています。