「法律だからと車道を走っていたら、大型トラックに幅寄せされて側溝に落ちそうになった」「路肩の白線の外側は小石やガラス片、排水溝のフタだらけで走れたものじゃない」。都内の通勤者や子育て世代へのヒアリングを行うと、現場の切迫した声が次々と寄せられます。原則車道通行が叫ばれる一方で、当事者が「かえって命の危険に晒されている」と直感する背景には、日本の道路構造が抱える構造的欠陥が存在します。
最大の脅威は、自動車と自転車の圧倒的な「速度差」と「質量差」です。法定速度50km/hで流れる道路において、一般的なシティサイクル(ママチャリ)の走行速度は時速15km前後にすぎません。後方から30km/h以上の相対速度で鉄の塊が迫り来る環境は、自転車側にとって極度の心理的ストレスをもたらします。バックミラーを持たない一般的な自転車では、後方からの接近を音と気配でしか察知できず、万が一の回避行動を取る余地すらありません。
さらに現場を危険に陥れているのが、路肩に連なる「路上駐車」の壁です。配達トラックや送迎車両を避けるため、自転車は車の右側へと膨らまざるを得ません。このとき、後方から直進してくる後続車との衝突事故や、停車中の車両のドアが不意に開く「ドア開放事故」が日常茶飯事で発生しています。加えて、道路の左端には雨水を流すための側溝(グレーチング)やアスファルトの段差、路肩に溜まった砂利や空き缶などの障害物が集中しています。細いタイヤでこれらを避けながら直進を維持することは、熟練したライダーであっても至難の業です。
国土交通省が整備を進めてきた「自転車専用通行帯(自転車レーン)」や「ナビマーク」も、万能の解決策にはなっていません。多くの場合、交差点の手前で突然途切れて左折レーンと交差したり、青いペイントの上に普通乗用車がハザードランプを点けて平然と停車していたりするのが実情です。形式的に青いラインを引いただけの空間では、自動車と自転車を物理的に分離できず、かえってドライバーに「自転車はレーン内に収まっているはずだ」という油断を生じさせる皮肉な結果を招いています。