水素水の広告で頻繁に用いられた「活性酸素の除去」というフレーズは、学術的な研究が歪曲されて広まった側面があります。学術誌『Nature Medicine』に発表された論文をはじめ、水素分子が有害なヒドロキシラジカルを選択的に還元する抗酸化作用を持つこと自体は、基礎研究レベルで学術的に報告されています。
しかし、医学的見解において決定的に欠落していたのは「試験管内や動物実験の結果を、そのまま人間が飲む市販水素水に当てはめることはできない」という臨床的な視点です。
水に溶かすことができる水素の飽和濃度は常圧下で最大約1.6ppm(mg/L)程度に過ぎません。市販の水素水をコップ1〜2杯飲んだところで、摂取できる水素の絶対量は極めて微量です。消化管から血中へと吸収され、体内各組織の活性酸素を臨床レベルで消去できるのかという問いに対し、人間を対象とした信頼性の高いエビデンスは確立されていません。基礎科学の知見を飛躍させ、確実な治療効果があるかのように装った点に問題の本質があります。