時計の針を1946年まで巻き戻そう。戦後の荒廃した日本で、国民の体力向上と精神的な復興を願って制作されたのが、多湖実春氏らの手による3代目のラジオ体操だった。しかし、複雑を極めたテンポと難解な動作構成が災いし、当時の受像機器やラジオの普及状況も相まって、わずか1年数か月で放送終了。音源も散逸し、長い間その存在すら都市伝説のように語られてきた。
この眠れる遺産に光を当てたのが、岐阜大学教育学部の安西秀樹教授(現名誉教授)を中心とする研究チームだ。残されたわずかなレコード盤やピアノの伴奏譜、当時の図解資料を執念深く発掘。体操指導員らとともに動作の再構築を重ね、およそ70年の時を経て現代へと完全復刻を果たした。長年この分野を守り続けてきたNPO法人全国ラジオ体操連盟やNHK(日本放送協会)、株式会社かんぽ生命保険が築いてきた国民的文化の裏に、このような知られざるドラマが横たわっていたのである。