イタリア人指揮官クラウディオ・ラニエリの手腕は、過度な戦術の押し付けを放棄し、「スカッドの長所を最大限に活かし、短所を完璧に隠す」という徹底した合理主義にありました。かつてチェルシー時代に選手を頻繁に入れ替えることから「ティンカーマン(修理屋)」と揶揄された老将が取った選択は、選手への絶対的信頼とシンプルな規律でした。
当時の戦術骨子は極めて明快です。
- 自陣ペナルティエリア幅のローブロック:無理に高い位置から奪いに行かず、バイタルエリアへの侵入を阻止。相手にボールを持たせても中央は絶対に割らせない。
- ボール保持率への執着を捨てる:シーズンの平均ボール支配率はわずか約44.8%(リーグ18位)。パス本数も下位でありながら、1回のカウンターあたりの期待値(xG)を最大化させた。
- 「カンテ・システム」の確立:中盤中央でカンテが広範囲をカバーすることで、相棒のドリンクウォーターは守備負担を軽減され、前線への高精度な縦パスやロングフィードに専念。
- 非対称のサイド攻撃:左サイドのオルブライトンが忠実に守備をこなしてクロスを供給する一方、右サイドのマフレズは自由を与えられ、ドリブルカットインからシュートやアシストを量産。
ラニエリは練習中に「ディリ・ディン、ディリ・ドン(集中しろ)」とベルの音を真似て選手を鼓舞し、無失点に抑えた試合の後にはチーム全員にピザをごちそうするなど、卓越したモチベーターとして選手たちの心理的プレッシャーを徹底的に排除しました。