インターネット上の掲示板やSNSでは、時折「渥美清は晩年の不摂生やヘビースモーカーが原因で肺がんになった」というステレオタイプな言説が見られます。しかし、これは明らかな誤解です。
田所康雄という人物の生涯を検証すると、彼は幼少期から小児麻痺や肋膜炎(ろくまくえん)を患うなど、極めて病弱な体質でした。青年期に患った肺結核によって片肺の機能を大きく損なって以降、日常的に激しい飲酒や放蕩を好むような生活とは無縁であり、むしろ自らの肉体の脆さを誰よりも自覚して摂生に努めていました。
「寅さん」という底抜けに明るく、丈夫で、どこまでも歩いていく放浪者のキャラクターは、病と死の恐怖を常に背中合わせに抱えていた田所康雄が、自らの祈りを込めて創り上げた祈念碑でもあったのです。弱さを知る人間だからこそ、傷ついた市井の人々の痛みに寄り添い、珠玉の人情喜劇を紡ぎ出すことができたといえます。