今でこそ主演級俳優としての地位を確立した眞栄田郷敦ですが、そのキャリアは兄とは対照的で、極めてドラマチックな挫折から始まっています。
日本へ帰国後、中学・高校時代を京都および岡山で過ごした郷敦は、吹奏楽に青春のすべてを捧げていました。名門・明誠学院高等学校では吹奏楽部部長としてアルトサックスを担当。全日本吹奏楽コンクールで全国大会銅賞を獲得するほどの実力を誇り、将来はプロのサックス奏者を目指して国内最高峰の東京藝術大学を受験しました。
しかし、結果は惜しくも不合格。本人の過去の手記やインタビューによると、この不合格の通知を受け取った瞬間、「人生で初めて味わった完全な挫折」に直面し、サックスの道をきっぱりと断念したと語られています。
失意のなかにあった郷敦に転機をもたらしたのが、兄・新田真剣佑の主演映画の試写会でした。スクリーンの中で圧倒的な存在感を放つ兄の姿と、客席を感動で包み込む映画の力に強い衝撃を受け、役者への転身を決意します。
2019年の映画『小さな恋のうた』で俳優デビューを果たすと、半年間の過酷なトレーニングで挑んだTBS系日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』で一躍脚光を浴びました。その後も快進撃は続き、代表作として以下の作品が挙げられます。
- ドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』(2022年):新人テレビディレクター・岸本拓朗役を熱演。苦悩と覚醒を見事に体現し、第47回エランドール賞新人賞を受賞。
- NHK大河ドラマ『どうする家康』(2023年):猛将・武田勝頼役を演じ、父譲りの圧倒的な殺陣と威厳で視聴者を圧倒。
- 映画『ゴールデンカムイ』(2024年〜):孤高のスナイパー・尾形百之助役を担当。原作ファンを唸らせる再現度の高さと冷徹なリアリズムで絶賛を浴びる。
- 月9ドラマ『366日』(2024年):切ない運命に翻弄される主人公の恋人役を繊細に演じ、恋愛ドラマの主役としても新境地を開拓。
音楽で培ったリズム感と集中力、そして挫折を知る者ならではの人間的な深みが、彼の演技を唯一無二のものにしています。