鹿沼市の事故以降、メディアやインターネット上では「てんかん患者は全員運転をやめるべきだ」という極端な言説が散見されるようになりました。しかし、この事故の本質を正しく理解するためには、疾患に対する科学的理解と、個人の規範意識の問題を峻別しなければなりません。
日本てんかん学会や厚生労働省の知見によれば、てんかんは適切な抗てんかん薬の服用と医師の管理のもとで、約7割から8割の患者が発作を完全にコントロール可能とされています。法律上も、2年以上にわたり発作が起きておらず、医師が「運転に支障がない」と判断した場合には合法的に運転免許の取得・保持が認められています。
鹿沼の事故における真の過失と罪責は、以下の3点に集約されます:
- 服薬の自己中断:発作を抑える薬が処方されていたにもかかわらず、自身の判断で漫然と服用を怠っていたこと。
- 過去の事故歴の無視:すでに運転中に複数回の発作を起こし、事故を起こしていたという明確な危険性の予見があったこと。
- 制度と雇用主への隠蔽:免許更新時の自己申告書で虚偽を記載し、12トンもの重量級車両を扱う土木作業に従事しながら会社に疾患を一切報告していなかったこと。
つまり、非難されるべきは「病気を持っていたこと」そのものではなく、「安全運転が不可能であるリスクを完全に自覚しながら、他者の命に対する配慮を欠いて重機を運行させた行動」です。疾患に対する偏見を強めることは、かえって患者が病気を隠蔽して無治療で運転を続けるリスクを高めてしまいます。正確な情報開示と医療へのアクセスを支える社会環境こそが、事故の再発防止に不可欠です。