神宮外苑をめぐる議論には、一般にあまり正確に理解されていない2つの構造的な盲点が存在します。
第一に、「公立の都市公園を東京都の税金で無理やり壊している」という誤解です。神宮外苑の土地の大部分は、宗教法人明治神宮が所有する私有地です。明治神宮の内苑(原宿の社叢林)を恒久的に維持・管理するための莫大な財源は、外苑の神宮球場やゴルフ練習場、バッティングセンターなどの収益事業によって賄われてきました。球場などの施設老朽化が進み、収益性が低下することは、内苑の森の維持存続にも直結します。つまり、事業者側にとって再開発は単なる不動産利益の追求だけでなく、神社経営の持続可能性をかけた死活問題でもあるという背景があります。
第二に、「反対派は近代的なスタジアム建設を全面拒否している」という思い込みです。多くの環境保護団体やイコモスが主張しているのは、建て替えそのものの拒否ではなく「神宮球場とラグビー場の現地建て替え(改修)」です。現在地で改修・新築を行えば、いちょう並木に極めて近接した場所に巨大な地下掘削を行う必要はなく、並木の枯死リスクを根本から回避できるという論理です。
【プロの結論】都市景観の価値判断と私たちが持つべき視点
都市社会学および環境保全の視点から導き出される教訓は、「一度形成された都市の文化的景観は、一度損なわれれば近代土木技術をもってしても完全な再生は不可能である」という冷厳な事実です。大正時代、先人たちが100年後の未来を見据えて高低差と遠近法を計算し尽くして植えたこの並木は、単なる樹木の集まりではなく、時間と空間が織り成す文化遺産そのものです。
この議論に触れるにあたり、私たち一人ひとりにも冷静な判断基準が求められます。
【再開発計画を前向きに捉えるべき視点】
老朽化したスタジアムのバリアフリー化や耐震強化、避難場所としての広場機能向上、民間資金を活用した持続可能な都有地近隣の活性化を最優先と考える場合。
【計画に対して極めて慎重になるべき視点】
100年かけて育まれた樹木生態系の不可逆性、ビスタ景観の保全、気候変動下における都心の巨大緑地がもたらすクールアイランド効果を最優先と考える場合。