大戸屋の運営体制を語るうえで避けて通れないのが、2020年に繰り広げられた大手外食コロワイドによる敵対的TOB(株式公開買付け)をめぐる一連の騒動です。創業家と当時の経営陣の間で生じた軋轢を契機に、コロワイド側が筆頭株主となり、最終的に連結子会社化を完了させました。当時、経済誌やテレビの報道特番では「セントラルキッチン化によって大戸屋伝統の手作り精神が失われるのではないか」という懸念が大々的に報じられ、熱心なファンによる反対運動に似た議論が沸き起こったのは記憶に新しいところです。
買収後の経営統合プロセスを追跡すると、コロワイド側が持ち込んだのは「強引な全自動化」ではなく、巨大外食グループの資本力を生かした「調達と物流の効率化」でした。年間の肉・魚・野菜の一括仕入れによるコスト削減や、自社工場での高精度な急速冷凍技術・真空パック技術を導入することで、食材の鮮度保持と安全基準の底上げが図られました。
厨房のオペレーションにおいては、店内での肉の手仕込みや魚を炭火でじっくり焼き上げるグリラー、注文ごとに小鍋で煮込む調理法といった核となる工程が維持されています。創業以来の理念であった「お母さんの手料理のような温もり」を完全に切り捨てたわけではなく、現場の過重労働を軽減しながらブランドの体面を保つための現実的な着地点を模索した結果が、現在の店舗オペレーションに反映されています。