順風満帆に見えたキャリアの途上、突如として異変が訪れたのは2016年8月のことでした。所属事務所であり、自身が代表取締役を務めるAIR AGENCYより「病気療養のため、しばらくの間休業する」との公式リリースが出されたのです。当時、テレビアニメ『クレヨンしんちゃん』の野原ひろし役をはじめ、多数のレギュラー番組を抱えていた売れっ子の休業は、声優界とファンに大きな衝撃を与えました。
闘病の経緯を時系列で整理すると、藤原さんの表現に対する凄まじい執念が浮かび上がってきます。
- 2016年8月:病気療養のための休業を発表。病名は当時公表されず、ファンの間では心配の声が広がりました。
- 2017年6月:体調を考慮しながら徐々に仕事を再開する旨を発表。翌年以降、劇場版アニメの公開アフレコやイベント等にも姿を見せ、回復に向かっているかのように見えました。
- 2018年〜2019年:『アベンジャーズ/エンドゲーム』のトニー・スターク役吹き替えや、『ドクター・ドリトル』の吹き替えなど、極めて重要な作品に渾身の熱量で出演。当時のインタビューでは声の掠れを指摘する声もありましたが、役に対する鬼気迫る集中力は健在でした。
- 2020年4月12日:がんのため逝去(享年55歳)。通夜および告別式は親族のみで執り行われ、所属事務所から「かねてより闘病中であった」という死因の発表がなされました。
当時、現場を目撃していた制作スタッフの手記や関係者の談話によると、復帰後の藤原さんは体力の消耗と闘いながらも、マイクの前に立つ瞬間だけは驚異的な集中力を発揮していたといいます。自身の病状を過剰に周囲へ誇示することなく、ただ「役者として求められる最高のテイクを出す」ことだけに注力したその姿は、まさに表現者の生き様そのものでした。