抜歯後の合併症の中で最も恐れられているのが、ドライソケット予防の真相を正しく理解していなかったことで生じる骨炎です。通常、歯を抜いた後の穴は血液が満ちて血餅となり、これが骨や歯肉へと変化する足場となります。しかし、何らかの拍子に血餅が剥がれ落ちたり形成不全を起こしたりすると、抜歯窩の中で無防備な顎の骨が露出し、細菌感染や激しい神経刺激を引き起こします。これがドライソケットであり、通常の抜歯痛とは比較にならない拍動性の激痛が10日から2週間以上にわたって持続します。
この壊滅的なトラブルの主因となっているのが、日常の何気ない動作です。とりわけ、ストロー使用禁止の決定的な理由は口腔内の解剖生理学的な圧力変化にあります。ストローを使ってゼリー飲料や水分を吸い上げるとき、口の中は強い陰圧(バキューム状態)になります。この吸引圧は想像以上に強烈で、まだ創面に定着しきっていない軟弱な血餅を、スポイトのように容易に吸い出してしまうのです。
臨床現場でも「口を開けづらいから」とストロー付きパウチ飲料を使った患者が、術後3日目に血餅を消失させて激痛で駆け込んでくる事例が後を絶ちません。栄養補給を行う際は、ストローや吸い口を直接くわえてすするのではなく、必ずスプーンですくって患部を避けるように口に運ぶか、コップの縁から直接口元へ注ぎ込む所作を徹底する必要があります。また、何度もうがいを繰り返す行為や、傷口が気になって舌先や指で触れる行為も血餅を物理的に剥がす最大の引き金です。