「母乳を直接吸わせないと愛情が伝わらない」「スキンシップ不足で愛着障害になる」という俗説がありますが、これは発達心理学における「アタッチメント理論(ボウルビィら提唱)」を著しく曲解した暴論です。
愛着形成のメカニズムとボウルビィの理論
心理学における愛着形成(アタッチメント)とは、乳幼児が不安や恐怖を感じた際に、特定の養育者を「安全基地」として頼る情緒的な絆のことです。この絆を育てる鍵は、乳幼児の「泣き」に対して養育者が適切に応答すること(感受性・応答性)にあります。
赤ちゃんはおっぱいの皮膚から栄養を吸う行為そのものだけで愛情を測定しているわけではありません。哺乳瓶でミルクを与える際でも、しっかりと抱っこし、目を見つめ、穏やかな声で語りかけながら授乳すれば、脳内でオキシトシン(愛情ホルモン)が十分に分泌され、強固な愛着関係が形成されます。逆に、完全母乳であっても母親が激しい苦痛やストレスで険しい表情を浮かべていたり、義務感だけで授乳していたりすれば、赤ちゃんにその緊張が伝わってしまいます。
自立心や性格形成への影響
「ミルクで育った子は甘え下手になる」「母乳の子は人見知りが激しい」といった性格特性への影響も、追跡調査で完全に否定されています。子どもの気質(temperament)は遺伝的要素と生後の家庭環境、保育園や幼稚園での集団生活など多様な相互作用によって形作られるものであり、生後数か月の授乳法が個人の性格を決定づけることはありません。