この「10万km」という数字は、一体誰がどのようにして導き出したのでしょうか。発端は、1920年に毛細血管の運動メカニズムの解明によってノーベル生理学・医学賞を受賞したデンマークの生理学者、アウグスト・クローグ(August Krogh)の研究に遡ります。
クローグは1922年に発表した著書『The Anatomy and Physiology of Capillaries(毛細血管の解剖生理学)』のなかで、骨格筋1立方ミリメートルあたりに存在する毛細血管の密度を顕微鏡下で精緻に計測しました。その密度データを成人の平均的な筋肉量や全身臓器の体積に当てはめて試算したところ、「毛細血管を一本に連結すると約10万kmになる」という推定値が弾き出されたのです。この試算は現代の生理学研究や解剖学の現場でも検証が重ねられており、計測手法や被験者の体格によって8万〜10万kmの幅はあるものの、概ね地球2周分から2周半という規模感は医学界の共通認識として支持され続けています。
それでは、身体の小さな子どもと大人では、血管の長さにどの程度の差があるのでしょうか。新生児や乳幼児の場合、体重や筋肉量が大人よりも格段に少ないため、血管の総延長も短く、乳児期ではおよそ2万〜3万km(地球半周〜4分の3周分)程度と推定されています。その後、身体の成長に伴って骨が伸び、筋肉が発達するプロセスに合わせて毛細血管は盛んに「血管新生(新しい血管が生え伸びること)」を繰り返します。身長や体重の増加と正比例するように血管網は拡張を続け、骨格の成長が完了する思春期後期から20歳前後にかけて、大人と同じ地球2周半の長さへと完成します。