一般的な健康診断や人間ドックで実施される呼吸機能検査といえば、筒状のマウスピースをくわえて「大きく吸って、勢いよく吐いて!」と指示されるスパイロメトリー検査です。この検査では、肺活量(VC)や1秒間に吐き出せる空気の量(努力性1秒量:FEV1.0)、1秒率(FEV1.0%)といった動的換気機能を簡便に測定できます。
しかし、健康診断の結果表を見ても「残気量」の数値が空欄だったり、そもそも項目自体が存在しなかったりすることが大半です。その理由は極めて単純かつ物理的な制約にあります。「口から外に吐き出せない空気は、空気の流れを検知する肺活量計(スパイロメーター)では直接測りようがない」からです。
看護師国家試験や臨床検査技師の国家試験でも、「スパイロメトリーで直接測定できない肺気量分画はどれか」という問題が頻出します。その正解はまさに「残気量(RV)」「機能的残気量(FRC)」「全肺気量(TLC)」の3つです。残気量を含んでいる項目は、いずれも通常の呼気測定器では数値を導き出すことができません。
では、専門病院の呼吸機能検査室ではどのようにして残気量を割り出しているのでしょうか。臨床現場では、主に以下の3つの精密な測定方法が用いられています。
- ヘリウム閉鎖回路法(ガス希釈法):
体内へ吸収されない不活性ガスであるヘリウムを既知の濃度で満たした閉鎖装置から、被験者に一定時間呼吸をしてもらいます。肺の中にもともとあった空気と装置内のヘリウムが混ざり合うことで、ヘリウム濃度が薄まります。「どれだけ薄まったか」という希釈率の計算式から、肺内にあった空気の総量を逆算します。 - 窒素洗い出し法(開放回路法):
肺内に存在する約80%の窒素ガスを利用する方法です。100%の純酸素を吸入させながら吐き出された空気を全量回収し、呼気中に含まれる窒素の総量を測定することで、元々の肺気量を割り出します。 - 体プレチスモグラフ法(密閉ボックス法):
被験者が電話ボックスのような完全に密閉された透明な部屋(ボディ・プレチスモグラフ)に入り、呼吸抵抗を測定します。ボイルの法則(一定温度下で気体の圧力と体積は反比例する)を応用し、呼吸に伴うキャビン内の微小な圧力変化から、気道が閉塞して閉じ込められたガス容量(胸腔内ガス容量:TGV)を極めて正確に算出します。現在、最も信頼性の高いゴールドスタンダードと位置付けられています。
こうした特殊な設備を要するため、残気量の測定は大学病院や呼吸器専門クリニックなどの専門機関に限定されます。息切れの原因が一般的なスパイロメトリーで特定できない場合、医師は迷わずこれらの精密検査へと駒を進めることになります。