かつて法務の役割は「営業が持ってきた案件にハンコを押すか、ダメ出しをする窓口」と見なされがちでした。しかし、SNSの拡散によるレピュテーションリスクが企業の存亡を左右し、下請法やフリーランス保護新法の運用が厳格化された現在、ビジネスで役立つ理由は守りにとどまりません。攻めの経営戦略を支える企業法務必須スキルとして機能しています。
第一に挙げられるのが、問題解決力と事実認定の精度です。人間はトラブルに直面すると、感情論や憶測、思い込みで状況を判断しがちです。「あいつは昔から態度が悪いから嘘をついている」「担当者の言い分が熱心だから正しいはずだ」といった主観に流され、初動を誤るケースは後を絶ちません。しかし、法的な思考を身につけたビジネスパーソンは、まず「客観的な証拠(メール履歴、ログデータ、契約書面の文言)」によって裏付けられる事実と、単なる「当事者の主張・感情」を外科手術のように厳密に切り分けます。この冷静な事実認定があるからこそ、炎上の火種を初期段階で確実に消し止めることができるのです。
第二に、コンプライアンスと法的思考の融合によるイノベーションの実現です。受動的なコンプライアンス意識しか持たない組織は、「法律に前例がないからやめておこう」と新規事業の芽を摘んでしまいます。対して、真のリーガルマインドを持つリーダーはこう考えます。
「この規制法が保護しようとしている法益(本来の目的)は何だろうか。消費者の安全を守ることにあるならば、最新のセンシング技術と利用規約の整備によってその安全性を別の手法で担保すれば、現行法の趣旨に反することなく新サービスを展開できるのではないか」
規制の文面だけを見るのではなく、その法律が作られた「背景と目的」まで遡って代替案を模索する。これこそが、激変する市場で法規制の壁を突破し、適法かつ安全に事業を拡大させるトップランナーたちの共通言語なのです。