ほうれん草を口にした際に生じる独特の違和感は、学術的にも解明されている生化学現象です。歯がザラザラする理由の根底にあるのは、ほうれん草に極めて多く含まれる有機酸の一種であるほうれん草のシュウ酸にあります。
シュウ酸は植物が外敵から身を守るために生成するアク成分であり、ほうれん草渋みの原因そのものです。野菜の中でもほうれん草のシュウ酸含有量は突出しており、生葉100gあたりおよそ800mg〜1,000mg前後もの高濃度で蓄積されています。
咀嚼によって細胞壁が破壊されると、遊離したシュウ酸が唾液中に一気に溶け出します。このとき、唾液に含まれるカルシウムイオンとシュウ酸が引き寄せ合い、瞬時にカルシウム結合を起こします。その結果生じるのが、不溶性の結晶体であるシュウ酸カルシウムです。
このシュウ酸カルシウムは、電子顕微鏡レベルで見ると尖った微細な結晶構造をしています。これが歯の表面や舌の粘膜に隙間なく物理的に付着することで、歯と歯を擦り合わせた際に摩擦抵抗が増大し、あの特有の「キシキシ」「ザラザラ」とした感覚が生じます。つまり、歯そのものが変質したのではなく、歯の表面に微小な結晶が無数に張り付いた状態が引き起こす物理的摩擦が真相です。