過去から現在に至るまで、警察当局が礼拝所不敬罪を適用して強制捜査や逮捕に踏み切った実例を見ると、社会の常識を逸脱した悪質な事例が並びます。
長崎「原子爆弾無縁死没者追悼祈念堂」での焼肉事件
礼拝所不敬罪の適用事例として法曹界で知られるのが、長崎市にある原爆無縁死没者追悼祈念堂で発生した事件です。数万柱の原爆犠牲者の遺骨が安置された神聖な追悼施設の敷地内で、52歳の男性が敷物を敷き、七輪を持ち込んで堂々と焼肉を行いました。長崎県警は男性を礼拝所不敬の疑いで現行犯逮捕しました。「宗教施設ではない追悼施設であっても、国民の敬虔な追悼感情が集まる礼拝所である」と認定された重要な事例です。
鳥居での懸垂・アクロバット動画炎上問題
世界的な大炎上となったのが、外国人インバウンド旅行者による神社の鳥居へのよじ登り・懸垂行為です。フィットネス系インフルエンサーの女性が鳥居の笠木にぶら下がり、笑顔で懸垂を繰り返す動画をInstagramやTikTokに投稿しました。動画は瞬く間に数千万回再生され、コメント欄には「神聖な場所に対する冒涜だ」「自国の教会で同じことができるのか」と批判が殺到しました。警察当局も関係各所と連携し、身元の特定や刑法188条違反の視野に入れた捜査を進める事態へと発展しました。
墓地での放尿・全裸撮影・墓石転倒
古くからの判例では、泥酔して共同墓地の墓石に向けて放尿した行為や、寺院の境内墓地で奇声を上げて墓石を蹴り倒した行為に礼拝所不敬罪が適用されています。近年では、過激な露出狂グループが深夜の墓地や神社拝殿前でヌード撮影を行い、その画像をネット上で販売していた事案でも同罪と公然わいせつ罪の併合罪で立件されています。
初犯と「起訴・不起訴」を分かつ司法の壁
ここで一般市民の感覚と乖離しているのが、起訴・不起訴の判断です。検察庁の事件処理統計を分析すると、礼拝所不敬罪の単独容疑で逮捕されたとしても、初犯かつ反省の弁を述べている場合、大半が「起訴猶予(不起訴処分)」となっています。起訴されたとしても、公判請求(正式裁判)ではなく「略式手続による罰金刑(数万円〜10万円)」で処理されるのが実務の定石です。
外国人観光客の場合、逮捕・勾留して取り調べを行っても、勾留満期(最長20日間)を迎える前に略式起訴で罰金を納付させ、そのまま出国(事実上の国外退去)となるケースが目立ちます。これがネット上で「実質的に野放しではないか」という強い不満を呼び起こす構造的な要因となっています。