かつて注意欠如・多動症(ADHD)の典型例といえば、教室を歩き回る、じっと座っていられないといった「身体的多動」が真っ先に挙げられていました。しかし、脳機能イメージング技術が長足の進歩を遂げた2026年現在、精神医療の臨床現場では、外面的には全く動いていないにもかかわらず頭の中だけが異常な回転数で暴走する「内的多動」、すなわち脳内多動の特徴に強い関心が寄せられています。
都内の精神神経科クリニックを訪れた30代の会社員女性は、初診時の問診票にこう書き残しています。「頭の中で常にラジオが3局同時に鳴り響いているような感覚で、電源スイッチの壊れた家電のように休まる瞬間がありません」。
脳内多動を抱える当事者からは、次のような特有のサインが報告されています。
・何もしていない時間帯ほど、過去の失敗談や突拍子もないアイデアが次々と脳裏に浮かぶ
・会話中、相手の話を聞きながら同時に別の3つの思考が連想ゲームのように展開する
・読書をしていても、視線は文字を追っているのに頭の中では別の考えが独り歩きしている
・周囲から「おとなしい」「落ち着いている」と評価される一方で、内面は常にパニック寸前である
子どもの頃にあった身体を揺らす、貧乏ゆすりをするなどの多動性が、成長に伴い大脳皮質の発達によって外面的には抑制された結果、思考の内面へと潜行した形がこの状態です。外見と内面の落差が激しいため、本人すら「自分がADHDの傾向を持っている」と気づかないまま、長年の生きづらさを抱え込みがちです。