津川雅彦(本名:加藤雅彦)さんの役者人生が大きく動き出したのは、1956年に公開された日活映画『狂った果実』でした。当時わずか16歳、青山学院高等部に在学中だった津川さんは、名匠・中平康監督に見出され、鮮烈な銀幕デビューを飾ります。
本作で津川さんが演じたのは、石原裕次郎さん演じる主人公・夏久の純情な弟・春次役でした。逗子の海を舞台に、一人の女性を巡って兄弟が破滅的な愛憎劇を繰り広げるこの作品は、当時の若者文化を象徴する「太陽族映画」の金字塔として社会現象を巻き起こします。「津川雅彦」という芸名は、原作者である石原慎太郎さんが直々に命名したものでした。
当時の劇場関係者や映画誌の記録によると、映画館のロビーは津川さんのブロマイドを求める女性ファンで溢れかえったと伝えられています。彫りの深い端正な顔立ち、涼やかな目元、どこか憂いを帯びた甘いマスクは、荒々しい男臭さを放つ石原裕次郎さんとは見事な対比を成し、映画界に彗星のごとく現れた「新時代のプリンス」として熱狂を呼びました。後年の対談で石原裕次郎さんも「あの透明感と甘さは、誰にも真似できない天性の華だった」と振り返っています。