かつて全国の視聴者に圧倒的な衝撃を与えたNHKスペシャル『知床 羆の王国』。あの不朽の名作ドキュメンタリーが描き出したのは、人跡未踏の原始河川でサケを豪快に狩るオスの威厳や、厳しい冬を越える母子の命の連環だった。放送アーカイブをNHKオンデマンドなどで見返すと、当時のフィルムに焼き付いた純粋な大自然の姿に今なお圧倒される。
しかし、半世紀近い歳月を経て、スクリーンの向こう側の神話は現実の生々しい課題へと変容した。Netflixをはじめとするグローバル動画配信プラットフォームで配信される美麗なネイチャードキュメンタリーは、知床を「野生動物の楽園」として世界へ発信し続けるが、現地の地面に立つと、そこには泥臭い管理と葛藤の日々が広がっている。
映像美としてのヒグマと、体重数百キロに達する肉食性も兼ね備えた大型哺乳類としての実像。そのギャップを埋めることこそが、知床を語る上で欠かせない視点だ。