歌舞伎界という特殊な世界において、配偶者に課されるハードルの高さも見過ごせません。いわゆる梨園の妻の条件は極めて厳格であり、家柄への配慮、挨拶回り、後援会(贔屓筋)への細やかな気配り、さらには跡継ぎを産み育てる役目など、自身の芸能活動をほぼ犠牲にして夫を黒子として支える覚悟が求められます。
交際当時、一部の週刊誌では松也の母親である元女優・河合盛恵氏の反対や懸念が報じられました。若くして父・六代目尾上松助を亡くした松也は、20歳という若さで一家の大黒柱となり、一門を背負ってきた苦労人です。母としても、一門の未来を左右する結婚相手に対しては慎重にならざるを得ませんでした。
前田自身も女優としてのキャリアを完全に捨てて裏方に専念する覚悟までは持ちきれず、伝統芸能の世界が求める「妻の役割」と、表現者であり続けたい自身のアイデンティティとの間で深い葛藤を抱えていたことは想像に難くありません。