大淀からさらに南へ目を向けると、重なり合う深い山並みが視界を覆う。この地の独特な陰影と風土を世界に知らしめたのが、河瀨直美監督の映画『萌の朱雀』だ。失われゆく山村の暮らしと、鬱蒼とした森の美しさをスクリーンに焼き付けたあの映像の原風景が、まさにこの吉野路の先へと続いている。
大淀iセンターで一息つきながら窓外の山並みを眺めていると、フィルムに収められていた光と風の感触が、そのまま肌に伝わってくるような錯覚に陥る。スクリーンの中のどこか切ない美しさは、遠いフィクションではない。今なお人々の営みとともに息づく吉野の現実なのだ。旅の途中で映画の記憶を手繰り寄せる寄り道は、通り過ぎるだけの観光を、一生記憶に残る体験へと塗り替えてくれる。