「たかが爪の汚れや内出血」と見過ごすことが、糖尿病治療においてもっとも危険な油断です。糖尿病で足の爪が黒い、あるいは肥厚(ひこう)する背景には、高血糖が長年引き起こしてきた糖尿病性神経障害と末梢動脈疾患(PAD)という2大合併症が深く関わっています。
足先は心臓からもっとも遠く、毛細血管の血流が滞りやすい部位です。動脈硬化が進むと足指の末端組織に十分な酸素や栄養が届かなくなり、爪の栄養状態が悪化して異常に分厚くなる「肥厚爪」が発生します。さらに、神経障害によって足先の知覚が鈍麻していると、靴による圧迫やぶつかった衝撃で爪下(爪の下の皮膚)に出血が起きても痛みを全く感じません。これが「足の爪が黒い」状態の正体である爪下血腫です。
痛覚が麻痺しているために本人は異常に気づかず、靴の中で圧迫され続けた爪下血腫はやがて細菌感染を起こし、爪の下から皮膚組織へと壊死が広がります。血流障害があると白血球や抗生剤が患部に届きにくく、感染は一気に深部組織や骨まで達します。これが、わずかな爪の変色からわずか数週間で糖尿病性壊疽(えそ)へと急速悪化する医学的なからくりです。