石原慎太郎氏と典子夫人の出会いは、昭和初期の湘南を舞台にした恋愛小説そのものでした。二人の血縁関係を紐解くと、実は「従兄妹(いとこ)同士」という濃密なルーツを持っています。慎太郎氏の父・潔氏の妹が、典子さんの実母にあたります。
二人が初めて言葉を交わしたのは、神奈川県逗子市でのことでした。当時、逗子開成中学校・高校に通う文学青年だった慎太郎氏(当時高校生)の前に現れたのが、親戚の集まりで逗子を訪れた当時わずか12歳の典子さんでした。海辺の強い光の中で無邪気に笑う少女の姿に、青年・慎太郎は運命的な直感を抱いたと回顧録で述懐しています。
交際は少女が成長するにつれて自然と深まり、1955年12月に二人は正式に結婚します。この時、典子さんはまだ17歳の高校生、慎太郎氏は一橋大学に在学する23歳の学生でした。
劇的だったのはそのタイミングです。結婚式のわずか約1か月後となる1956年1月、慎太郎氏の短編小説『太陽の季節』が第34回芥川賞を受賞します。無名の大学生作家から一夜にして日本中を席巻する時代の寵児へと駆け上がった夫と、若くしてその熱狂の渦中に飛び込むことになった17歳の新妻。激動の幕開けを覚悟の上で引き受けた典子さんの精神的な度量は、少女時代からすでに規格外であったと言えます。