「たかがコーヒー1杯に1,200円は高すぎる」という消費者の疑問はもっともです。しかし、サプライチェーンの現場を詳細に追跡すると、スペシャルティコーヒー高い理由には極めて論理的かつ切実な経済的要因が存在します。
最大の要因は、コーヒー業界を揺るがす「2050年問題」です。地球温暖化に伴う異常気象や病害虫(さび病)の蔓延により、2050年までにアラビカ種の栽培適地が半減すると予測されています。これに伴い、高標高で丁寧に栽培される高品質な生豆の希少価値は年々跳ね上がっています。
さらに、かつての植民地型搾取モデルから脱却し、生産農家へ持続可能な生活賃金を支払う「ダイレクトトレード(直接買い付け)」が標準化した点も挙げられます。仲買人を介さず、ロースターが農園主と直接交渉して国際相場の2倍から5倍以上のプレミアム価格で買い取る仕組みが定着しました。これに昨今の為替変動、海上輸送コストの高騰、国内における焙煎人件費・店舗賃料が加わることで、一杯あたりの原価構造は劇的に変化しています。
都内のある有名ロースタリーのオーナー焙煎士は、取材に対して次のように明かしています。
「お客様から『昔は喫茶店で300円だった』と言われることもあります。しかし、昔の価格設定は途上国の生産者に極めて低い対価を強いることで成り立っていました。農園の労働環境を整え、次世代の若者がコーヒー栽培を継ぎたいと思える環境を作るには、この価格で買い支える必要があります。私たちが提供しているのは、単なるカフェインではなく、一杯に凝縮された農業芸術の結晶です」