絵手紙の創始者である小池邦夫氏が遺した「ヘタでいい、ヘタがいい」という金言は、単なる気休めの言葉ではない。造形美術の視点から見ても、対象を几帳面に写し取っただけの絵画より、描き手の息遣いや対象への感動が荒々しく刻まれた線のほうが、見る者の感情を強く揺さぶることが実証されている。
初心者が「絵心がなくて描けない」と思い込んでしまう最大の要因は、学校教育で刷り込まれた「均一な線で正確な形を描き、枠内をムラなく塗る」という減点方式の固定観念にある。しかし、絵手紙の世界において目指すべき境地はその真逆だ。筆先を震わせ、かすれを生じさせ、時には輪郭から色が大きくはみ出すことこそが、みずみずしい臨場感を生み出すトリガーになる。
特に夏を彩る題材は、球体に近いスイカやトマト、力強い花弁を持つひまわりなど、原初的な幾何学形態に近いものが揃っている。複雑な陰影表現を施さずとも、鮮烈な赤や黄色、深い緑を置くだけでモチーフが瞬時に成立する点も、夏が絵手紙入門に最適と言われる所以である。