SNS上では倒木事故が起きるたびに「なぜ事前に沿線の木を切っておかないのか」「鉄道会社の怠慢ではないか」という批判が散見されます。しかし、ここには日本の民法と土地所有権に起因する根深い構造的ジレンマが存在します。
鉄道敷地内に生えている樹木であれば鉄道事業者の判断で計画伐採が可能です。しかし、線路に倒れ込んでくる大木の多くは、線路に隣接する私有地・民有地や公道・斜面緑地から越境してくるものです。民法第233条の規定により、隣地の竹木の枝が境界線を越境していても、原則として土地所有者に切除させるか承諾を得る必要があり、鉄道会社が勝手に他人の所有物を切り倒すことは法的に極めて困難でした(法改正により一定の越境枝切除は緩和されたものの、倒壊リスクのある幹そのものの無断伐採は依然不可)。
さらに、倒木トラブルにおける振替輸送の利用方法についても重大な誤解が蔓延しています。
- 誤解1:「ICカード(Suica・PASMO)残高で乗れば自動的に振替扱いになる」
→ 完全な誤り。振替輸送の対象となるのは「見合わせ区間を含む定期券・磁気乗車券」のみです。ICカードのSF(電子マネー残高)で入場した場合、迂回先の鉄道運賃は全額自己負担となります。 - 誤解2:「遅延証明書をもらうために改札の長蛇の列に並ばなければならない」
→ 並ぶ必要はありません。京王電鉄をはじめとする各社は、公式Webサイト上で京王線遅延証明書のオンライン発行(最大30日〜45日分)を実施しており、紙の証明書と法的・社内手続き上の効力は全く同等です。