上賀茂神社の二ノ鳥居をくぐると、正面の「細殿(ほそどの)」の前に佇む美しい円錐形の二つの盛り砂が視界に飛び込んできます。これは「立砂(たてずな)」と呼ばれ、現代の家庭や店舗の玄関先で見られる「盛り塩」の原型となった極めて神聖な象徴です。
立砂は、本殿の北北西約2キロメートルにそびえる神体山「神山(こうやま)」を模して造られた依代(神が降臨する依り代)です。賀茂別雷大神が降臨した神山を拝するため、境内に小型の山を築いたのが始まりとされています。よく観察すると、向かって左の砂山には3本の松葉、右の砂山には2本の松葉が立てられています。この松葉の本数は古代中国から伝わった陰陽思想に基づいており、「奇数(陽)」と「偶数(陰)」を組み合わせることで森羅万象の調和と生命の再生を祈念しています。
立砂の先に広がる境内には、参拝前に知っておくべき重要遺構が凝縮されています。
- 国宝・本殿と権殿(ごんでん):江戸時代末期(文久3年/1863年)に造替された社殿は、神社建築の頂点である「流造(ながれづくり)」の典型として国宝に指定されています。権殿は本殿と寸分違わぬ規模で並び立ち、式年遷宮や修理の際に神体を一時的に移すための予備社殿として機能しています。
- ならの小川と渉渓園(しょうけいえん):境内をさらさらと流れる清流「ならの小川」は、小倉百人一首に収められた藤原従二位家隆の和歌「風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける」の舞台です。平安貴族が禊(みそぎ)を行った歴史を持ち、現代でも澄み切った波動が漂っています。
- 片岡社(片山御子神社):楼門のすぐ手前に鎮座する第一摂社で、下鴨神社の祭神でもある母神「玉依媛命」を祀っています。平安時代の女流歌人・紫式部が足繁く参拝し、「めづらしき 光さしそふ さかづきは もちながらこそ 千代もめぐらめ」と詠んだ縁結び屈指の名所です。絵馬の奉納所には良縁や夫婦円満を願う参拝者の祈念が溢れています。