当時のぼんじゅうるの俳優時代を象徴するのが、絵に描いたような「極貧の下積み生活」です。日本の小劇場界は、一部の商業演劇や有名劇団を除けば、チケットを売っても役者個人にはギャラが入らないどころか、自ら高額なチケットノルマを買い取る構造が常態化していました。
彼が所属していたぼんじゅうるの劇団や客演先での具体的な出演作品については、商業映画や全国ネットの地上波ドラマのようなマス媒体ではなく、新宿や下北沢、中野といった小劇場の濃密な空間で上演されるストレートプレイや現代劇、シチュエーションコメディが中心でした。そのため、現在の大手映画データベース等に記録が大々的に残っているわけではありません。しかし、限られた舞台装置の中で全身を使って喜怒哀楽を表現し、劇場内の数十人から数百人の観客を笑わせ、泣かせる過酷な板の上こそが彼の主戦場でした。
手記や過去の雑談配信で明かされたエピソードは、想像を絶する厳しさです。稽古期間に入れば日中のまとまった時間は拘束され、まともな定職に就くことはできません。生活費と公演のチケットノルマを捻出するため、深夜の居酒屋バイトや肉体労働、警備員などのアルバイトを掛け持ちする日々が続きました。「給料日前に財布の中身が数百円しかなく、もやしとうどんだけで数日間を凌いだ」「冬場に暖房をつけるのを躊躇した」といった逸話は、誇張ではなく当時の演劇青年が直面していた冷徹な現実そのものでした。
夢を追いかける情熱と、容赦なく削られていく貯金通帳の残高。同世代の友人たちが一般企業で昇進し、家庭を持ち、家を建てるという社会的なライフステージを進めていく中で、30代を迎えてもボロアパートで台本を握りしめていた日々の焦燥感は、彼の心に深い影を落としていきました。