ヘビにとって、自らの体重の50%から100%に達する成人人間を捕食することは、決して日常的な栄養摂取ではなく、命を賭けた極めてハイリスクな行動です。動物行動学の調査によれば、蛇が人間を襲う主な契機は「誤認」と「極限の飢餓」に集約されます。
ヘビは視力が弱く、獲物の識別をピット器官による赤外線(体熱)感知と、舌で集めた化学物質(臭気)に依存しています。地面にしゃがみ込んで草刈りや収穫作業を行っている人間は、大蛇の感覚器官からはシカやイノシシといった四足歩行の中型哺乳類と酷似した熱源として映ります。不用意に接近した人間に対し、待ち伏せ型の捕食習性を持つ個体が反射的にストライク(噛みつきと巻き付き)を仕掛けてしまうのです。
獲物の心停止を確認して呑み込みに成功したとしても、その後に待ち受けるのは過酷な消化プロセスです。人間の成人の骨格・衣服・肉量を完全に分解・吸収するためには、環境温度28度〜32度の条件下でも最低2週間から約1ヶ月におよぶ膨大な消化時間を必要とします。
この間、ヘビの代謝率は平常時の40倍以上に跳ね上がり、心臓や肝臓などの内臓器官が急激に肥大化します。腹部が巨大に膨らんだ状態では這うことすらままならず、防御能力は事実上ゼロになります。インドネシアで犠牲者を出したヘビがいずれも現場からわずか数十メートルから数百メートルの範囲で発見され、村人たちにあっけなく捕殺されている事実は、人間を丸呑みすることがヘビ自身にとっても「致死的な賭け」であったことを雄弁に物語っています。