読者がいとも簡単に信じ込んでしまった背景には、宮下あきら氏による計算し尽くされた(あるいは直感的な天才による)3つの巧みな仕掛けが存在します。
第1に、辞書や専門書を模した精緻なレイアウトとフォント使いです。男塾の劇中で技が炸裂した直後、突如として画面が切り替わり、四角い囲み枠の中に明朝体の厳格な文章、古文書風の挿絵、そして末尾に小さく記された「民明書房刊『○○』より抜粋」の文字。この視覚的な説得力が、読者の疑念を瞬時に打ち消しました。
第2に、実在の歴史的事実や人物、科学用語の絶妙なブレンドです。始皇帝、マルコ・ポーロ、西太后、エイブラハム・リンカーンといった誰もが知る歴史上の偉人や、実在する地名・物理法則を前置きに使い、途中から徐々に嘘へとシフトしていく構造が取られていました。読者は「歴史の教科書に載っていない裏の歴史」を読んでいるような錯覚に陥ったのです。
第3に、「〜と伝えられている」「諸説あるが定かではない」という学術的文体です。断定を避け、あえて曖昧さを残す客観的なトーンが、かえって記録文学としての真実味を際立たせる結果を生み出しました。