家庭の万能常備薬として半世紀以上にわたり親しまれている「オロナインH軟膏」。ネット掲示板や知恵袋などでは「毛嚢炎にもオロナインを厚塗りしておけば治る」といった俗説が根強く支持されています。しかし、この民間療法的な認識には重大な盲点が存在します。
オロナインH軟膏の主成分は「クロルヘキシジングルコン酸塩液」という殺菌消毒成分です。擦り傷や切り傷の化膿予防、軽度のにきびへの適応は認められているものの、既に毛包の奥深くまで細菌が侵入し、白く膿が溜まるレベルに達した毛嚢炎に対しては抗菌スペクトルおよび組織浸透性の観点から力不足であるケースが少なくありません。消毒薬としての殺菌作用はあるものの、病巣で活発に分裂増殖する黄色ブドウ球菌を完全に駆逐する抗生物質とは根本的に薬理メカニズムが異なるためです。
油分(ワセリンやオリブ油など)を多く含む基剤の特性上、化膿している毛穴を密閉してしまい、皮脂分泌の多い部位では嫌気性環境を助長して炎症を長引かせるリスクすら孕んでいます。軽微なシェービング後の肌荒れ予防程度であれば一定の保護効果を発揮しますが、赤く腫れ上がった毛嚢炎に対してオロナインのみに頼り切る行為は、根本治療を遅らせる典型例と言わざるを得ません。