重厚な扉を開けて聖堂内に一歩足を踏み入れると、外の喧騒が嘘のような静寂と、蝋燭の柔らかな光に照らされた神秘的な空間が広がります。
堂内最大の見どころは、至聖所(祭壇)と会衆席を仕切る巨大な仕切り壁「イコノスタス(聖障)」です。何段にもわたって整然と並べられた聖像(イコン)は、金箔が多用され、息をのむほどの荘厳さを放っています。
正教会におけるイコンは単なる装飾ではなく「天国への窓」と位置づけられる神聖な存在です。大聖堂のイコン群の中には、ロシアから運ばれた傑作だけでなく、明治期の日本における女性洋画家の先駆けであり、聖ニコライに学んだ山下りんが手掛けた貴重な作品も含まれています。筆遣いの繊細さと祈りの深さが融合したイコンの数々は、見る者の心を強く打ちます。
また、正教会の奉神礼ではパイプオルガンなどの楽器を使わず、すべて人間の声による無伴奏声楽(ア・カペラ)で祈りが歌われます。さらに、決まった時刻や奉神礼の開始時に駿河台の空へと響き渡る鐘楼の鐘の音は、ロシア伝来の複雑で美しいリズムを刻み、都心の隠れた名物として親しまれています。