ソーシャルメディア上で定期的にバズを起こすのが、「天下一品は道路標識を無断でパクっているのではないか」「警察から指導を受けないのか」という言説です。しかし、この指摘には二重の誤解が含まれています。
第1の誤解は、道路標識のデザインに対する権利侵害の疑いです。道路標識は国家公安委員会や国土交通省が定める公共の記号であり、特定の個人や団体が著作権を主張して他者の使用を全面的に差し止められる性質のものではありません。もちろん、道路の至近にドライバーが「本物の進入禁止」と誤認して急停車・逆走を誘発するような紛らわしい設置を行えば、道路法第45条や道路交通法に抵触する恐れはあります。しかし、天下一品の看板は店名表記や建物の構造と一体化しており、通常の注意力を有するドライバーが公的な規制標識と混同することはまずあり得ないため、管轄警察署から撤去命令が下るような事態には至りません。
第2の誤解は、「単なる模倣による安易な看板デザイン」という見方です。視覚心理学の観点から見ると、赤は進出色・興奮色であり、人間の網膜に最も早く届く波長を持っています。そこに無彩色で最も明度の高い白を交差させる配色は、危険を知らせる国際基準の警告色として成立しています。木村勉氏は、自らの「一」への情熱を託すと同時に、昭和のロードサイドビジネス黎明期において、人間の認知心理に最も深く突き刺さるカラーコンビネーションを直感的に選び取っていたのです。これはパクリというより、極めて合理的な商業デザインの勝利と評すべきでしょう。